日本の医療提供体制の不都合な真実

この記事では、医療についての数字をみていくことで、日本の医療提供体制について考えてみたい。

 

医療提供体制の強化については自民党総裁選の討論会でも記者から質問がでるなどメディアの関心は高い。候補者の中にはホームページで医療提供体制の強化に関する自らの政策を主張している者もいる。

私は専門家ではないが、各候補が医療提供体制について語る際に具体的な数字が出てこないことが非常に気になった。「医療提供体制を拡充します」という言葉を発することは誰でもできる、では具体的にどの程度の拡充が必要なのか、そうした具体的な数字が出てこないということは真剣に検討をしていないのではないかという疑念が拭えない。

 

自宅療養を余儀なくされるコロナ患者が何万人もいて、メディアでも「医療崩壊」という言葉が連日踊った。

不思議なことに日本よりはるかに多くのコロナ患者がいるアメリカやイギリスで「医療崩壊」が起こっているという話を聞いたことがない。

 

まず、各国のコロナ患者の最大入院者数の実績を整理をしてみよう。

日本 24,081人(2021.9.1)

イギリス 34,336人(2021.1)※

アメリカ 130,834人(2021.1.5)※

※その後更新されている可能性あり

 

ソースとしているWEBサイトのリンクは以下の通り。

病床使用率 全都道府県グラフ|NHK特設サイト

「一日の感染者5万人」でも英国が「医療崩壊の心配ゼロ」の理由(JBpress) - Yahoo!ニュース

米、コロナ感染者2100万人突破 入院者も最多の13万人超 | ロイター

 

国毎に人口が違うので米英が日本と同じ人口だったと仮定した場合の入院者数は以下の通り。

日本 24,081人

イギリス 64,503人

アメリカ 50,427人

 

米英と比較して日本がいかに少ないかがわかる。

 

一方で、日本は病床数が世界で一番多いらしい。

このパラドクスはなぜ起こるのだろうか。

 

次に各国の病床数を整理する。カッコ内は日本と同じ人口と仮定した場合の数字。

日本 983,700 

イギリス 163,873(307,847)

アメリカ 809,880(312,222)

※日本とアメリカは急性期の病床数、イギリスは内訳が不明なためそのほかの病床も含む。

 

ソースは以下の資料

病床数の国際比較

https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20210120_1.pdf

 

たしかに病床数は日本の方がはるかに多い。

 

各国では医療制度が違う。イギリスはほとんどが国営病院のため、政府の号令で一丸となって医療提供体制を構築することができる。日本はほとんどが保険医療で国費が入っているにも関わらず、民間病院へは公的な介入ができない制度となっており、そのことが問題視されている。

一方、アメリカは国営病院ではないのに、入院者数を多く受け入れている。これは病院の規模の違いが要因かもしれない。規模が大きい病院ほど受け入れの体制を整えやすいからである。以下の記事をみると、日本は病院数が多いことがわかる。病院数が多いということは病院の規模はおのずと小さくなる。

医師少ない日本に世界一病院が多いという謎 | 健康 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

 

また、一重に病床といっても、その性格はさまざまである。日本では高度な治療が行える病床は多くないことを示す数字もある。

 

ICU等合計病床数 カッコ内は人口10万人あたりの数字

日本 5,603(4.3)

日本 17,034(13.5)

イギリス 4,114(6.6)

アメリカ 77,809(34.7)

※日本は定義が違う2つの数字が示されている。

 

ソースは以下の資料

ICU等の病床に関する国際比較について

https://www.mhlw.go.jp/content/000664798.pdf

 

こうした数字をみると、病床はあっても人が足りないということが報じられることがあるが、そもそも病床が十分にあるとも言えないのではないか。

 

さらに人の面で医療の数字をみていこう。

 

日本の医療を外国と比べられる数字の情報はないの? |ニッセイ基礎研究所

https://www.nli-research.co.jp/files/topics/61120_ext_15_7.jpg?v=1552958439

医師の数はイギリス、アメリカよりも少なく、OECD平均の8割程度しかいないことがわかる。

看護師の数はイギリスよりは多いが、アメリカやOECD平均と同じ程度だ。

 

 

日本では高齢者人口が年々増えてきており、それにともなって医療費も毎年のように過去最高を更新している。

政府では、財務省的な発想で、いかにして医療の財政負担を抑制するかということが長年議論されてきている。

そのため、各国に比べて多い病床数の削減や病院の統廃合といった政策が進められてきている。

しかし、上でみたように人数の面では決して充実していない状況である。

 

医者の卵である医学部生の数字をみてみよう。

以下の資料によると、日本の人口10万人当たりの医学部卒業者数は6.9人となっていて、

OECD平均の13.0人よりはるかに少ない。

また、医学部の入学定員の推移をみると近年はわずかに増加しているがほとんど横ばいとなっている。

 

医療関連データの国際比較-OECD Health Statistics 2019- 

https://www.jmari.med.or.jp/download/RE077.pdf

医学部入学定員と地域枠の年次推移

https://info.shaho.co.jp/iryou/wp-content/uploads/2018/10/b5979f80f4b311d92925a0e35bc71627.pdf

 

医者の偏在が問題視されることがあるが、そもそも超高齢化社会となる中で医師の絶対数自体が不足していくのではないか。

 

医師不足に危機感を持つ人々は医学部の定員増を訴えているのであろうが、実際には定員が大きく増えていない。

その要因として以下の2つの思惑があるのではないかと推察する。

・ライバルとなる医者の数を増やしたくない利益団体である日本医師会の思惑

・医者が増えればそれだけ財政負担が大きくなるので増やしたくない財務省の思惑

 

医師数は少ないのに病院数が多いという非効率な状況を放置していていいのかという問題もある。

 

今回のコロナ危機でほころびがみえた日本の医療提供体制。

しかし、これは一過性のものではなく、今後の高齢化社会において医療が維持できるのかという重要な問題でもある。

そして、これは専門家にまかせておけば解決する問題ではない。

政治が自らの問題としてしっかり捉えて、解決していかなければならない問題である。

 

もうすぐ総選挙があり、各党で政策が議論されているが、残念ながら与野党ともにこの問題に正面から取り組もうという動きはみえない。

政治が考えないのであれば、国民一人一人が考え、政治に圧力をかけるしかないのではないか。

 

あなたはどう考えますか。