フリをして安心して選んでもらう
国政選挙について、やしおさんのブログを読んでなぜ野党の支持率が一向に伸びないのかがわかった気がする。
特になるほどなと思ったのが以下の部分。
【①一般向けイメージ形成】フリをして安心して選んでもらう
「政権交代で選んでもらう」には「任せても大丈夫そう」のイメージが必要なんだとすると、それには「まるでもう政権を取っているかのように振舞う」がある程度必要になってくる。
記事でも指摘されているが、野党のイメージ戦略というものはまったくないに等しいと思う。ただ批判するだけ。そのような状態ではどこまでいっても与党の失敗頼みなので与党への逆風という風頼みになってしまう。
コロナの第5波による猛烈な逆風のおかげで横浜市長選挙は野党が勝った。しかし、コロナの感染者数が落ち着いてきて、自民党総裁選挙で話題をさらわれている状況で、猛烈な逆風は止むだろう。地力の勝負になれば野党は候補者を一本化したとしてもとても与党には勝てないだろう。
「確かな野党」という残念が言葉がある。
本来政党であれば与党を目指して支持を訴えるのが当然のように思うが、自民党が与党であることが固定化されている時代が長く続き、野党はいつまでも野党でそのことにプライドさえ持ち、与党とではなく野党同士の争いに意識があったからこそ出た言葉なんだろうと思う。
与党になることがないから、野党の語る政策はいきおい理想を追い求める理念的で無責任な政策になりがちである。
「確かな野党」というより「確かに野党」だという皮肉もむべなるかなである。
共産党のような歴史のある野党ほど固定的な支持者がいて、そうした支持者にうける政策を並べたいという思いがあるのかもしれない。しかし、それは残念ながら多くの無党派にとっては「また野党は現実も見ずに理想的なことばっかり主張している」と捉えられているのではないか。
私は日本の政府は小さすぎて失敗しているという認識なので、大きな政府を主張する勢力が伸びることをいつも期待している。
残念ながら歴代の野党第一党は大きな政府にしたいのかどうかすらよくわからない状況であった。むしろ自民党と小さな政府争いをしているのではないか思えるような悲惨な時代もあった。最近になって立憲民主党もやっと大きな政府の方向に向かいつつあるようだが、党首が非常に残念な人で、自分は現実主義者なので極端なことは言いたくないという態度をつらぬいているため、はっきりと大きな政府を目指すということは言っていない状況である。
野党の中ではっきりと大きな政府を主張しているのは、共産党とれいわ新選組、国民民主党あたりだが、いずれも支持率がぱっとしない。
先日、共産党が政策を発表した。
私からすれば、どれも現政権に対する強烈な批判と目指すべきあるべき姿が示されており、いい政策であると思う。
しかし、小さな政府も大きな政府もよくわからない大多数の無党派にどう響くかは別の問題である。
例えば、以下の政策。最低賃金付近で働く多くの人々がこの政策をどう感じるのか、真剣に考えたことはあるのだろうか。
○中小企業への賃上げ支援を抜本的に強化しながら、最低賃金を引き上げます。
――最低賃金を時給1500円に引き上げ、全国一律最賃制を確立します。
私は経済学者の多くがそうであるように、そもそも最低賃金を一律に政府が決めるということ自体に懐疑的な立場ではあるが、一種の貧困政策として社会の効率性を犠牲にしても最低賃金というものを設けるという立場は一定程度理解できるし、現実に最低賃金という制度は日本でも長く続いている制度である。
安倍菅政権では多少強引ではないかというくらいに最低賃金をあげてきているように思える。それが野党を意識したことなのかどうかはわからない。
経済学上自明なことであるが、最低賃金が上がることでなくなる雇用がでてくる。多くの経営者は経営が成り立たなくなることに不安を覚えるであろうし、最低賃金付近で働く労働者も単純に「最低賃金があがれば自分の給料があがる」と期待をするわけではなく「仕事がなくなってしまうのではないか」という不安も持つであろう。
共産党の掲げる最低賃金一律1500円には、そうした複雑な事情に対する配慮が一切感じられないのだ。都市部と地方では家賃も生活コストもまったく違うので、現在の最低賃金は都道府県別に決められている。なぜ一律1500円とするのか、そうしたことも全くわからない。
「フリをして安心して選んでもらう」ということを真剣に考えていないから、私などからみると「いい加減」にみえる政策を出してしまうのではないか。
また、この政策には一般の国民が抱くであろう疑問や不安な点への説明が抜けているように思える。選挙向けの政策だから聞こえのいいことだけを書いておけばいい、賛否の分かれるようなものはあえて書かないようにしようというような一種の不誠実さを感じる。
具体的にいうと、財源の問題や国防についての認識についての説明が抜けている。
大きな政府を主張するのは良いとして、どの程度の予算増になるのか、それをどう負担していくのかということも正々堂々と示すべきではないか。
今回の政策には明示していないにせよ、共産党のかねてからの主張から、財源は法人と富裕層からとるべきものをとるということなのだろうと思う。ただ、これはやり方を工夫しなければ経済を混乱に陥れる可能性が大いにあるナイーブな問題である。
個人的にはヘリマネ論者かつ、富裕層への増税は賛成だが、法人税についてはなくてもいいのではないかとすら思っている派なので、共産党が考えているであろうことにはとても賛同できるとは思わない。
本当に政権交代を起こしたいのであれば、いかにすれば政党としての理想を体現しつつ、ソフトランディングをさせられるかというシミュレーションを本当の専門家もまじえて検討をしなければならないだろう。
また、かねてから自衛隊を違憲だと主張してきた政党なので、与党になれば防衛費を減らすのではないか。これが国民の素朴な捉え方であろう。個人的には減らすのがよいとは思わないが、減らすべきと考えているなら批判を恐れずに堂々と主張すべきであろう。
こうした主張をあえてしていないのは、大多数の無党派層を納得させられる自信がないのではないかと思う。5%弱の固定支持層に刺さる政策でよしとするのではなく、大多数の無党派数をも納得させられる政策にみがきをかける必要があるだろう。
日本の有権者は決してバカではない。いくら与党がダメでも、野党も理想ばかりで無責任な政策を語っていると思えば、投票しようと思わないのは仕方がないことであろう。
共産党に限らず野党には「フリをして安心して選んでもらう」心構えが必要であろう。